事例研究
1 働き方改革の概要
(1)医師の長時間労働の常態化が問題となっていたため、2024年4月に医師の働き方改革関連法が施行されました。主な内容としては、労働時間の上限規制と健康確保措置の2点になります。従わない場合には罰則も設けられているため、 医療機関を運営する経営者サイドも慎重な取扱いが必要になってきます。医師の働き方改革の制度についての詳しい解説は厚生労働省のHPを参照ください。
(2)働き方改革によって、医師一人一人の働ける時間が以前より厳しく制限されることになりました。そのため、病院側としては人手不足といった問題点がより深刻化していくことが想定され、現にその傾向は顕著なものになりつつあります。この問題点を解決する手段として、医療機関を経営する側としては、常勤医師とは別に非常勤医師の雇用を増強することが一つの案として考えられます。
(3)非常勤医師であっても、法的に「労働者」に該当すると判断される場合には労働時間規制が適用されます。この場合、当該医師が常勤又は非常勤医師として働いている他の医療機関との合計の労働時間が上限規制を遵守している必要があります。そのため、経営側としては非常勤医師の勤務形態について把握しておくことが重要になってきます。
2 医師の勤務の法的性質
法的に「労働者」に該当するかどうかの判断基準は、使用者と従業員との間の使用従属関係の有無によって決まり、契約書の文言だけではなく、実態を捉えて判断されます。判断基準は、業務等の指示に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無、拘束性の有無、代替性の有無、報酬の労務対償性、事業者性の有無、専属性の程度等によって判断されます(労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」)。
「労働者」に該当する場合には、業務について、使用者から指揮監督されている必要があります。この指揮監督の程度については職種によって異なり、医師のような高度の専門性を有する仕事の場合には、広範な裁量が認められているため、多職種に比べて指揮命令の程度が弱いことは否めません。しかし、業務内容に関する基本的指示を受けていたり、出退勤管理等の拘束を受けていたりしていれば、「指揮命令下の労働」に当たるものとして労働者性が認められることが一般的です(土田道夫「労働契約法第2版」(有斐閣・2018年)358頁)。
ちなみに、少し古い統計ですが平成26年時点の厚生労働省の調査によれば、実際に法的に「労働者」と該当すると考えられている医師の数は約72%とされており、全国の医師の大半は労働者とされているのが実態です(第2回・医師の働き方改革に関する検討会・資料2「労働基準法上の労働時間法制について」)。なお、研修医について労働者性が争われた判例がありますが、最高裁は労働者を肯定しています(最二小判平成17年6月3日(民集59巻5号938頁)関西医科大学研修医事件)。また、勤務医について、正面から労働者性を争われた最高裁判決はありませんが、労働者であることを前提として判断していると考えられます(最二小判平成29年7月7日(労判1168号49頁)医療法人社団康心会事件)。
3 法的に「労働者」に該当しない医師
大半の医師は、労働者とされていると述べましたが、就労先医療機関によっては「労働者」には該当しないケースもあります。医療法人の理事長や院長などの管理監督者に該当する医師(労基法41条2号)のほか、通常の雇用契約以外で勤務する医師です。主に考えられるものとして、労働者派遣で派遣される医師や、業務委託等の契約をしている非常勤の医師達が労働者以外の医師になります。
(1)派遣
派遣と雇用(アルバイトを含む)の違いは雇用主です。雇用の場合は就労先がそのまま雇用主になります。これに対し、派遣の場合は、派遣元が雇用主であり、労働契約関係があるのは派遣元となり、派遣先(就労先)との関係では直接の契約関係がありません。そのため、医師として派遣された者は、派遣先の医療機関では「労働者」に該当せず、派遣元において「労働者」として労働時間の管理に服することになります。
なお、原則として医師の派遣は法律で禁止されています(労働者派遣法4条1項3号、労働者派遣法施行令2条1項各号)。しかし、例外的に、①紹介予定派遣をする場合、②業務が産前産後休業、育児休業、介護休業を取得した労働者の業務である場合、③業務に従事する派遣労働者の就業場所がへき地、または医師確保のため厚生労働省令で定める場所の場合には、医師の派遣も認められています(労働者派遣法施行令2条1項、2項)。
(2)業務委託・フリーランス
単発のスポットで手術や診察の依頼をしたり、いわゆるフリーランスの医師に業務の依頼をしたりする場合には、通常の雇用契約とは異なる、業務委託契約等の契約を締結することが一般的です。これらの場合、雇用と異なり、医療機関経営者の指揮命令や時間的場所的拘束等が及びません。そのため、契約内容がこのようなものであり、かつ、勤務実態もそれに即しているのであれば、法的に「労働者」には該当しません。
他方、契約書の文言が業務委託とされていても、実態が「労働者」に該当する場合には、後述のような様々な問題が生じることになります。
4 非常勤医師の問題点
(1)非常勤医師がアルバイトとして勤務している場合には、通常、法的に「労働者」に該当するため。労働法の保護と規律を受けることになります。そして、前述のとおり、当該医師に複数の勤務場所がある場合には、それら全てで労働時間が通算されるため、上限規制を遵守すべく労働時間の共有を図る必要があります。各医療機関間の連携も必要となってくるため、業務管理の体制をしっかりと整えておく必要があります。連携の例として、厚生労働省は、管理モデルという体制の導入を促しています。
(2)非常勤医師が業務委託やフリーランスの場合でも、上記労働者性の判断基準に照らし、実態として法的に「労働者」に該当するとされた場合には、様々な問題が発生します。
ア 1つ目は、労働法の保護を受けることです。法的に「労働者」に該当しなければ労働法の適用がなく、法定の労働時間規制を受けないため、たとえば法定時間外手当(残業代)は発生しません。しかし、実態において法的に「労働者」に該当すると判断されると、これまで働いていた分の残業代を、消滅時効のかからない範囲で支払う必要が生じます。また、36協定締結義務違反等を理由に、労働法上の罰則の適用を受ける可能性もあります。
イ 2つ目は、やや特殊ですが最近よく見られる契約形態において、偽装請負とみなされる可能性がある点です。偽装請負とは、形式上は請負契約で業務を請け負っているが、実質的に労働者派遣とみなされる場合をいいます。たとえば、A医師がB病院で非常勤医師として働くことになりました。その際に、A医師と関連するC会社が介在し、C会社とB病院との業務委託契約にし、A医師はC会社の担当者としてB病院に非常勤で勤務していたという事情があったとします(C会社は医療経営コンサルティング等を事業目的とする場合が多いようです)。この状況の中では、契約上、B病院とA医師との間では指揮命令関係は発生しません。あくまでC会社とA医師との間で雇用関係があるにすぎず、C会社がB病院から受託した業務につき担当者であるA医師に対し指揮命令権を行使する、という構図になります。しかし、実態としてB病院とA医師との間で指揮命令関係が存在すれば、労働者派遣と同じことなります。そのため、派遣元であるC会社が労働者派遣業の許可を得ていなかった場合には、派遣先であるB病院も労働者派遣法違反になります。また、医師は原則として労働者派遣を禁止されているので、この点でも労働者派遣法に違反する可能性があります。
なお、このA医師とC会社の経営者であるなど、両者の関係性が委任、業務委託等の雇用以外の関係である場合には、派遣元であるC社との間で指揮命令が認められないため、実態が労働者派遣とはならず、その意味で偽装請負には該当しません。もっとも、B病院とA医師の間に指揮命令関係があり、B病院においてA医師が「労働者」に該当する実態が認められれば、前記「ア」と同様の問題は生じうると思われます。

(3)法的に「労働者」に該当するか否かの判断は、個別の事情それぞれで判断する必要があり、画一的に判断をすることができません。そのため、働いている医師が「労働者」なのか判断に迷った場合には、一度弁護士に相談するのが最善策であるといえます。
弁護士 三村 南央斗
