エッセイ
令和8(2026)年10月1日より、事業者に対するカスタマーハラスメント(カスハラ)対策が義務付けられます。
近年、男女を問わず人気が高まり、脱毛などの手軽な施術をはじめ,ネットフリックスにおいて「ダウンタイム」というドラマが人気を博し、メディアからも注目を集める美容医療業界ですが、ドラマでも少し触れられたとおり、他業種と比べてもカスハラが発生しやすい背景を抱えています。
今回は、美容医療業界におけるカスハラ問題の特質と、クリニックが講じるべき具体的な対応策について解説します。
1. 美容医療特有の問題点:「マイナスからの回復」ではなく「自己実現」
美容医療が一般的な医療と大きく異なるのは、「病気や怪我といったマイナス状態を元の状態に戻す」のではなく、「現在の状態からより良い状態を目指す」という患者さまの自己実現を目的としている点です。
この性質上、患者さまが医師や施術に対して抱く要求水準(期待値)は非常に高くなりがちです。そのため、医療・施術としては何ら問題なく成功している場合であっても、「自分が思っていた仕上がりと違う」という主観的な理由によるクレームが発生しやすく、これが美容医療における最も多いトラブル類型となっています。
2. 現場で求められる予防策と初期対応
主観的な期待とのギャップに起因するクレームに対しては、初期対応と事前のリスク管理が極めて重要です。
•ダウンタイムや経過に関する丁寧な説明 施術直後に生じる顔の腫れなどは、回復プロセス(ダウンタイム)の一環であり「施術の失敗ではない」ことを正しく説明し、一定期間の様子見を促すことが効果的です。
•事前説明と同意取得の証拠化(インフォームド・コンセント) 万が一紛争に発展した場合に備え、リスクや経過について事前に説明を行い、患者さまから適切な同意を得ていたことを書面や記録として残しておくことが不可欠です。
3. 悪質クレーマーからスタッフとクリニックを守るために
理不尽な悪質クレームへの対応は、現場で対応する従業員の心身を疲弊させ、ときには担当医師の業務を妨害するリスクもはらんでいます。
紛争化する可能性が高いクレーマーに対しては、現場のスタッフだけで抱え込まず、早期に顧問弁護士へ対応を引き継ぐ体制を整えておくことが、クリニックの診療体制とスタッフを守るための最善策となります。
4.おわりに
法改正による義務化を見据え、施術前の説明フローの再確認や、弁護士との連携体制を含めた初期対応の仕組みづくりを進めていきましょう。
(弁護士 三村南央斗)
